夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
ーー筈、だった。
波打ち際に足を踏み入れようとした時。
微かに、私の耳に届いた、声。
「っ……う……ッ」
苦しそうな。
誰かの、うめき声?
「!……誰?」
その声にハッと我に返ると、辺りを見渡した。
波の音だけが静かに響く、夜の海。
暗闇に目を凝らしていると……。
少し離れた波打ち際に、うつ伏せに倒れている。
……人影?
「!……大丈夫ですかっ?!」
私は慌てて倒れている人に駆け寄り、身を屈めて覗き込むようにしながら声をかけた。
一瞬白髪かとも思わせる、薄っすらと煌めいた白金色の髪をした、男性。
「っ……どうし、よう」
様子を伺うが、反応がなく意識を失っているようだった。
海で溺れたのかも知れない。
自分より重い男性をなんとか抱き起して仰向けにすると、口元や頰にそっと触れてみる。
呼吸をしていない、冷たい顔。
このまま放っておいたら、死んでしまうかも知れない!
男性を見ていたら、そう思って……。
亡くしたばかりの母の事が脳裏を過った。