夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
(2)
……
…………。
静かな、波の音だけが響く砂浜。
私はすっかり、なぜ自分がここに来たかという目的を忘れていた。
『何も思い出せない』……。
そう言って頭を抱えたまま座り込んでいる彼の横姿を傍で茫然と見つめながらも、頭の中は突然の出来事にパニックだった。
人生の中で記憶喪失の人に出会うなんて、どれくらいの確率なんだろうか?
まさかの事態にどう対処していいのかわからない。
しかし……。
「えーと、えーと」と、必死に考え込んでいる私をよそに、すぐ傍にいた彼は急に立ち上がったと思うと、海を見つめながらこう言った。
「ん、まぁ……。
思い出せないならしょうがないか!」
「!?……えっ?」
「思い出せないなら、無理に考えても仕方ないし。
ま、とりあえず気長に待つよ」
「……」
彼の言葉に、私は後ろ姿を見つめまま呆気に取られてしまった。