夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
「そ、そう……かな?
自分ではよく分からないけど……」
口ではそう返したが、この写真を見てバロンが私の父親だと分かったのなら、きっと似ているんだろう、と思った。
お母さんは茶色の髪と瞳なのに、私が黒髪で黒い瞳なのもお父さん譲りみたいだし。
「お父様の記憶は?
何か思い出とか、ないんですか?」
バロンは私の休憩タイムを見計らって用意してきてくれた紅茶をティーカップに注ぐと、そっと机に置いてくれた。
淹れたての紅茶。
大好きな香りを一緒に味わうようにしながら一口飲んで、私は思い出しながら答える。
「……それが、全くないの。
悲しいよね。三年は一緒に居た筈なのに」
当時3歳では何も覚えていなくて当たり前と思いながらも、やはり何か一つくらい朧気にでも覚えていたかった。
お仕事、忙しい人だったのかな?
あまり家に居なかった、とか?
そう言えば、父の職業すら知らない。
聞いた事がない。
私は何か父親を思い出せるヒントがないか、記憶を探った。