夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

問い掛けに答える事は出来ない。

それでも……。
俯いていても、気配で分かる。


「猫ちゃん、いただきます」

私の返事を待たずに、バロンはクッキーを手に取って……。
大きな掌にクッキーを並べてから、一つずつ長い指で摘んで、食べるの。


耳に届く、相手が美味しそうに食べてくれていると分かるサクサクと言う音。
それだけで嬉しいのに、彼はいつもそれ以上の喜びをくれる。


「……うん。甘さ、丁度良いです。
やっぱり、お嬢様のクッキーが1番ですね」

それは私にとって最高の、他の誰にも言えない褒め言葉ーー。


『もう少し甘くてもいいかも』
以前、バロンに言われた言葉。

私は知らず知らずに、あの時彼に言われた事を、直していた。
前より少し砂糖を増やして、バロン好みに味付けして……。

いつだって、私は貴方の事で胸がいっぱいだった。

そう気付いても、どうしようも出来ない感情がもどかしくて……。私は逃げる。
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