夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

***

「アカリ様は、それ、誰かにあげるんですか?」

「え?」

お菓子作りもいよいよ仕上げの段階。
焼き上がりのいい匂いが漂う中で、私が作っていたお菓子を使用人達が見つめる。

実演した方がみんなが分かりやすいかな。
と思って焼いた、ハート型のチョコレートケーキ。


「……あ。
警備のみんなに差し入れしよう、かな?」

使用人の質問にバロンの顔が浮かんだけど……。
彼だけにあげる訳にもいかないし、きっとそんな事をしたらバロンを困らせてしまうだけだと思った。


ーーうん。
みんなに差し入れしよう!

心の中で頷いて、私は人数分に切ろうとナイフに手を伸ばした。


でも、その瞬間に「ダメです!!」と厨房内に響く声。

「えっ?」と目をパチクリさせていると、集まっていた使用人達が私の作ったチョコレートケーキを守るように遠ざける。


「切っちゃダメです!」

「警備達への差し入れは、我々が作った物で十分です!」

「え?……えぇっ??」

必死に力説するみんなに、私は茫然。
< 294 / 475 >

この作品をシェア

pagetop