夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

「……」

けど、バロンは何も答えてくれない。
平然と、表情を変えずに私を見つめている。


沈黙の時間。

私が見つめる彼の頭上を、一羽の白い鳥が飛んで行った。
広い大海原を越えて、ずっと先の大陸へ行くのだろう。


バロンにはあの鳥のように、ここから羽ばたける強い翼がある。

私は鳥に彼の姿を重ねて、見送るように視線で追った。

そしたら……。
鳥が遠ざかって、小さくなって行く度に、私の笑顔も次第に消えて行く。


振り返らず、真っ直ぐ飛び去る、そんな姿を望んでる筈だった。

彼に辛い思いをさせるくらいなら、明日と言わず、今この場で放してあげようと思ってた。

それなのに……。


胸がズキズキと痛み出す。
グッと、胸元に置いていた手を握り締めた時だった。

ずっと黙ったままその場から動かなかったバロンが、手袋を外してズボンのポケットにしまうと、バシャバシャと波打ち際に足を進める。
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