夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
けれど、それを口にしてはいけない。
私がここを巣立つ事は悲しみではなく、彼女達にとっての喜びなのだから……。
ローザ達が胸を痛めず私を送り出せるように、最後くらいは”最高のお嬢様”でいたいと思った。
「間も無くアルバート様がお見えになります。
……準備は、よろしいですか?」
ローザはそう言うと、チラッとバロンを見つめる。
アルバート様が来られたら、男性であるバロンは私の傍には居られない。
だから、これが最後。
まともに顔を合わせて話せる、最後の刻かも知れなかった。
「……私は、大広間の手伝いに参ります。
ローザ殿、後はよろしくお願いします」
ーーでも。
彼がもう、私を見る事はなかった。
視線を送ったけど、バロンはローザに一礼するとそのまま扉の方へ足を進めて行く。
振り返らず、静かに扉をパタンッと閉めて、去って行った。
「……。
案外、不器用な男なのかも知れませんね」
溜め息混じりで微笑むローザに、私は首を横に振った。