夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

「バ、バロン……さん?」

「え?バロンさん、だよな?」

半信半疑の言葉が飛び交う。
その騒ぎの元は、この別荘で一緒に生活してきた彼。

強くて、賢くて、何でも出来る、彼。

いつも穏やかで……。
礼儀正しくて、優しい、彼。

私達が知っている彼は、そんなバロン。


……でも。
今私達が見ている彼は、全く違う人物。


「大体、契約期間がなげぇ!
もう二度とやんねぇからなッ……!!」

全く違う口調に、声に、態度。

ネクタイを外して、召使いの制服を着崩しながら、堂々と使用人達の間を通り抜けて……。
彼はシュウさんの側へ行くと、束ねていた髪を解いて、上げていた長い前髪を下ろして……。

その長い前髪の間から鋭く覗く瞳で、大広間を見渡す。


ーーああ。涙が、出そう。

私には、一瞬で分かった。
彼が誰なのか、確信した。
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