夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

ーーでも、無理だよ。

ここに勤める人物は、アルバート様の厳しい審査を潜り抜けた人達。
身元が不明な彼を雇ってくれるなんて、到底思えなかった。

胸を高鳴らせながらも、厳しい現実が私の顔を曇らせる。


ところが……。


「ーーいいでしょう」

私の耳に届いたのは、ローザの予想外の言葉。


「貴方が警備長に勝ったら、私がアルバート様に進言致します。
お嬢様直属の召使いになれるように……」


!……う、そ。

私はもちろん、その場にいた全員が耳を疑った。


私がここに来て一ヶ月。
たった一ヶ月だけど……。
あの堅物なローザが、こんな無理矢理な彼の申し出を飲むなんて予想外の出来事。

周りの使用人達も信じられない、といった表情で顔を見合わせている。
驚きどよめく広間。


けど。
そんなザワついた雰囲気を和ませる、声。


「……ありがとうございます」

周りの様子も全く気にせず、落ち着いた声色でお礼を言うと……。顔を上げた彼は、ニコッと微笑んだ。

彼の声に、表情に、みんなが惹きつけられて何も言えなくなる。
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