夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
仕方ねぇ。
少しだけ、お礼してやるか……。
それはまさに、気まぐれだとしか思えない俺の行動だった。
俺は怪我の手当てを済ませると、寂しそうなガキをベッドに寝かせた。
が、お礼と言ってもガキ相手に何していいか分からず……。
なかなか眠らないガキの枕元に、俺はただ居るだけだった。
ただ、居るだけ。
でもガキは、馬鹿みたいに喜んでた。
「……ね、おにいちゃん。おなまえは?」
「……。ヴァロン」
質問に答えるだけで、本当に嬉しそうに微笑った。
「ばろん……?」
「バ、じゃない。ヴァ、だから……」
「ば?……ばろん?」
「ヴァ、ね。……発音違うから。
……。お前頭悪そうだな……」
何度教えてもまともに呼ぶ事が出来ない。
それでも必死に頑張る姿が、ほんとギルにそっくり過ぎて……。
つい意地悪な事を言ってしまうのに、俺の心は暖かい明りに灯されているようで……。
なんだか少し、この場を離れ難くなった。