夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
ゆっくりもう一度。
視線を子猫から窓の方へ移すと……。
「!っ……だ、だぁれ?」
窓の下に座り込む人影を見付けて、私は驚きのあまり尻餅を着いた。
母親ではない。
そこに居たのは、男の人。
ご近所さんの誰かだろうか?
記憶を巡らせながら見つめていると、私に気付いて顔を上げた男の人と、瞳が重なる。
黒髪で黒い瞳の、”お兄さん”って雰囲気の男の人。
知らない人だ。
長い前髪から覗く瞳が鋭くて、私は思わずビクッと怯えた。
怖い人?悪い人?
もしかして泥棒さんかも知れない、って頭を過ぎった。
けれど、そんな疑いは一瞬で晴れる。
「みゃ~っ」
私の足元から駆け出した子猫が、座っている彼の手元に擦り寄ると……。彼は子猫を抱き上げて、頬擦りするように顔に寄せた。
その表情が、優しくて。
鋭かった瞳も、和らいで……。
ーー怖い人じゃ、ない。
本能的にそう感じた私は、その光景に目を逸らせなくなった。
見惚れちゃった、って言うのかな?
なぜだか、その人をずっと見てたいって思ったんだ。