夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
「……。
なぁ、そこの……お前」
「!……へ?」
ぽ〜っとしていたら、想像していたよりもずっと優しい声が彼から聞こえた。
「……お前だよ、お前。
チビ、お前しかいねぇだろ?」
突然話し掛けられて動揺した私が、ハッとして辺りを見渡していると、冷静な声でツッコミを入れられる。
「わ、わた……し?」
「……コイツ、飼ってくんねぇ?
俺、連れていけねぇからさ」
”チビ”と呼ばれて、自分を指差して首を傾げる私に、彼はそう言うと子猫を差し出してきた。
不思議な人。
『知らない人から物を貰っちゃいけない』って、お母さんとの約束を……。
いつもなら絶対に破らないお母さんとの約束を、彼は簡単に私に忘れさせてしまった。
ゆっくり立ち上がり、彼に歩み寄ってその手から子猫を受け取り胸に抱く。
すると、子猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、私の頰に自分の顔を擦り付けてきた。
「みゃ~っ」
「わっ!くすぐったいよぉ~!」
スリスリされてこそばゆいのと、その行動から自分に好意を持ってくれている事が分かり、私は嬉しくて笑った。