夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
「……よかったな」
そんな、私と子猫が戯れる様子を見て、彼も微笑った。
顔を少し傾けて、目を細めた色っぽい彼の笑顔。
その表情が見れた事が、とても嬉しくて。
心が弾んで、私はまた微笑った。
いつも独りぼっちだった夜の寂しい空間。
今夜は違う、優しくて暖かい。
それから、ほんの少しドキドキする鼓動。
恥ずかしいような、嬉しいのに落ち着かない気持ちだ。
それでも彼を見ていたくて、猫に構うフリをしながらチラチラと視線を送っていると……。
「……ッ!」
暫くしてその場から立ち上がろうとした彼が、左の太ももを押さえて表情を歪ませた。
「!……おにいちゃん?
……ち!ケガ、してるのっ?」
どうしたのだろう?と歩み寄って驚く。
暗くて、黒いズボンだったから今まで分からなかったが、太ももを押さえた彼の手が血に染まっていたのだ。
「ま、まってて……!」
私は子猫を床に降ろすと、急いでタオルと救急箱を用意した。