Kissしちゃう?
 僕は一瞬戸惑った。


 彼女は亡くなる前にお腹の中に胎児を宿していたらしい。


 しかもおそらく父親であろうと思われる僕にも内緒で。


 これは病院関係者からは一切知らされていないことだった。


“きっと早紀はここで骨を撒くことで、このことを打ち明けられたんだろうな”


 僕はそう思いながら、


「子供はどっちだったの?男の子?それとも女の子?」


 と訊いてみた。


「男の子だった。真二にとっても似てたの」


「ふーん」


 僕は意想外に思いながら、頷く。


 しばらく天の彼方にいて、一時的に降臨していた早紀と僕の対話が続いた。


 それはとても楽しく、僕たちは別れのときが来るのを惜しむかのように話し続ける。
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