Kissしちゃう?
 大学生といえば紛れもなく立派な大人であり、僕も早紀も多少常識外れのようなことをしてはいても、立ち居振る舞いはすでに大人のそれだった。


 だから、僕は短パンは真夏の暑いアパートで過ごすとき以外は、極力穿かない。


 足の毛が出て、見えてしまい、みっともないからだ。


 よほど暑くて汗がダラダラ出る時季は穿くが、僕はこれも成人男性のちゃんとした振る舞いの一つだと考えていた。


 それに僕自身正直なところ、足の脛毛(すねげ)が見えるということが何よりも恥ずかしかったのだ。


 いわゆる誰もが感じる羞恥心(しゅうちしん)というやつを、ようやく感じ始めたわけである。


 僕もそんなことを思ううちに、すっかり大人になった。


 十月の初旬に、同じ文学部の学生数人で集まって、僕たちは大学の近くにある飲み屋で飲んだ。


 皆、かなり酒に強くなっている。


 大学に入れば、自然と強くなるとは先輩たちから聞いて知っていたが、それだけ、学生はアルコールが入れば饒舌(じょうぜつ)になるし、互いに冗談も言い合って、バカ話の一つや二つするようになる。
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