Kissしちゃう?
 その日はやはり後期の授業らしく、前期に古典の講義があっていたので、ある程度時代が下がって、明治時代の作家、とりわけ夏目漱石と森鴎外のことに関して、井原先生が学生の発表を聞きながら、講義を進めていた。


 先生の熱弁ぶりは学科内でもかなり有名だった。


 特講は毎回担当の生徒がレジュメを作成し、それを元手に授業が開かれるのだ。


 いわばある種のゼミのようなもので、出席する学生も皆、意欲満々らしい。


 普段は滅多にノートを取らない僕も、気になった点に関して、時折手元にあるルーズリーフにシャープペンシルでちょこちょことメモしている。


 ちょうど隣の席に座っている早紀も、おそらく一言も聞き漏らすまいと思って、担当学生の発表と井原先生の講義を並行して聞きながら、時折頷く。


 授業は九十分なので、お昼には無事終わった。


「飯でも食うか?」


 僕が誘ってみると、早紀が、


「ええ。さっき詰め込んどけばよかったわ。お腹ぺこぺこ」


 と言い、笑ってみせた。
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