俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「私、皆さんと一緒に働けて本当によかったと思ってます。これからもよろしくお願いします」


軽く頭を下げると、皆の表情がほころぶ。そのうちのひとりが、「新たな頼もしい仲間に乾杯!」と声を上げ、賑やかに二度目の乾杯をした。

それからも、席を変えていろいろな話を聞き、楽しい時間を過ごした。この世界に私を連れ出してくれた、今ここにいない彼に感謝をしながら。


三時間ほど飲み食いして、歓迎会はお開きとなった。

酔いつぶれた武蔵さんが呼んだタクシー組と、“元地下アイドルが一夜限りの復活!”と大盛り上がりのカラオケ組とに分かれ、お店を出たところで解散した。

私と桐原さんは電車組だ。不破さん同様、職場以外では苗字で呼ぶことにした彼と一緒に、徒歩十分ほどの駅へ向かう。

酔いが回ったいい気分で歩き始めてしばらくすると、コートのポケットの中でスマホが震えだした。


「あ、電話……」


スマホを取り出してディスプレイを見た瞬間、酔いがすうっと醒めていく。表示されている名前が、ずっと会っていない母親のものだったから。
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