俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「私、仕事に生きるわ。じゃあね」


フラれたことを払拭するくらい清々しく別れてやろうと、あっさりとした口調で告げ、笑顔で手を振った。

歩き出し、颯太の横を通り過ぎようとした瞬間、耳に馴染む声が投げかけられる。


「俺も、麗といられて幸せだった。ありがとう」


切なさが滲む、真摯な声。

一瞬足が止まり、堪えていた涙が急激に込み上げてくる。それがこぼれ落ちる前に、私は唇を噛みしめ、振り返らずにカフェをあとにした。

耳の後ろで結んでいたシュシュをはずし、長い髪で泣き顔を隠して寒空の下を歩く。

終わるときはこんなに呆気ないものなんだな……。でも、三年間楽しかった。

デートも、手を繋いだのも、キスも。全部全部、颯太が初めてだった。

その大切な思い出が、繰り返し頭の中に流れる。

ケンカもしたし、嫌なこともそれなりにあったのに、どうして幸せな記憶ばかりが浮かんでくるのだろうか。

これを振り切るためには、仕事をするしかない。生憎、勤め先がブラック企業でよかった……なんて、まさかこんなふうに思う日が来るとは。

颯太に宣言した通り、しばらくは仕事に生きよう。

そう心に誓い、私は濡れた頬を手で拭って、クリスマスムード一色の街中をひとり歩き続けた。


< 12 / 261 >

この作品をシェア

pagetop