俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
身体ごと背け、素知らぬフリでせかせかと書類を集めると、横から不破さんの手が伸びてきた。私の手から書類を取ると同時に、耳元に顔が近づく。


「俺の恋人になったら、それだけじゃ済まさないけどな」


低く艶めいた囁き声が耳に流れ込んできて、予想外の返しに幾度となく心臓が跳ね上がる。

『それだけじゃ済まさない』って、じゃあなにを……と、これこそ妄想が無駄に掻き立てられてしまう!

ちょいちょいセクシーさを露わにしてくる社長様は含みのある笑みを浮かべ、合鍵を握りしめた私の右手をポンポンと軽く叩きながら、「失くすなよ」と念を押す。

彼はさっさと腰を上げ、なに食わぬ顔をしているけれど、私は床に膝をついたままですぐには動けなかった。

……割り切れるようになっただなんて、前言撤回だ。めちゃくちゃ意識しているし、ドキドキしまくっている。この人はただからかっているだけだろうに。

この先も恋心を抱きながら彼のお世話をすることに、私は一抹の不安を覚えるのだった。

< 122 / 261 >

この作品をシェア

pagetop