俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
だって、万が一私が颯太と付き合っている頃から、桃花とも関係を持っていたら?

私たちが別れたとき、慰めてくれていた彼女が心の中では“よかった”と思っていたとしたら?

悪いほうにばかり考えてしまって、本心を打ち明けられたら大切な友情が壊れてしまうかもしれない、と恐れているのだ。隠さないでほしいとも思っているし、矛盾しているけれど。

キリのいいところで、マウスを動かしていた手をスマホに移し、先ほど彼女とやり取りしていたメッセージを見返してみる。


【今日は残業で遅くなりそう。桃花は明日も仕事だし、先に休んでてね】


遠回しに“今日は話を聞けない”ということを匂わせた自分の文を見て、大きなため息を吐き出した。

桃花が待つ家に帰るのが、こんなにも気まずいと感じたことは一度もない。かと言って、実家には帰れないし他に頼れる友達はひとりもいない。


「私って、ほんと寂しい女なんだな……」


自嘲する笑みと共に、自虐的な独り言をこぼした。

社会人になり、ブラックな会社に忙殺されていた私にとって、桃花は唯一の癒しであり、なくてはならない存在だった。親や友達と疎遠になっても、颯太と別れても、彼女がいてくれたから笑っていられた。

そんな彼女を失くしたら、私に残っているものは結局仕事だけだ。なんの温かみも感じない、仕事だけ。
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