俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「五年目まで頑張ったら、もっといいことがあるかもしれない」
「いいこと?」
なんだか気になるひとことに、私は首を傾げる。しかし、彼は意味深な笑みを浮かべるだけ。
そして、白い封筒のようなものを黒い細身のパンツのポケットから取り出す。
「じゃ、俺はお先に」
一瞬、彼の顔の横でひらりと掲げられた封筒に、私の目は釘づけになった。
そこに書かれていたのは、“退職届”の三文字だったから。
嘘、今日ここに来た理由はこれを提出するため? さっき、『最後に景色を拝んでおこうかと』と言っていた意味も、そういうこと!?
「えっ……不破さん、辞めるんですか!?」
柵から手を離し、不破さんに向き直って声を上げるも、彼は一歩を踏み出す。
「あぁ。もうこの会社に用はない」
きっぱりと言い切り、「元気でな」というひとことと不敵な笑みを残して歩き出す彼を、私は呆然と見送るしかなかった。
入社してから八ヶ月ちょっとの間で、すでに何人か辞める人は見てきたけれど、不破さんも辞めちゃうのか……。やっぱり彼も、ここに未来はないと見限ってのことなのかな。
なんだか、少し寂しい。そんなに関わったことはなくても、私は彼に救われたのだから。
「いいこと?」
なんだか気になるひとことに、私は首を傾げる。しかし、彼は意味深な笑みを浮かべるだけ。
そして、白い封筒のようなものを黒い細身のパンツのポケットから取り出す。
「じゃ、俺はお先に」
一瞬、彼の顔の横でひらりと掲げられた封筒に、私の目は釘づけになった。
そこに書かれていたのは、“退職届”の三文字だったから。
嘘、今日ここに来た理由はこれを提出するため? さっき、『最後に景色を拝んでおこうかと』と言っていた意味も、そういうこと!?
「えっ……不破さん、辞めるんですか!?」
柵から手を離し、不破さんに向き直って声を上げるも、彼は一歩を踏み出す。
「あぁ。もうこの会社に用はない」
きっぱりと言い切り、「元気でな」というひとことと不敵な笑みを残して歩き出す彼を、私は呆然と見送るしかなかった。
入社してから八ヶ月ちょっとの間で、すでに何人か辞める人は見てきたけれど、不破さんも辞めちゃうのか……。やっぱり彼も、ここに未来はないと見限ってのことなのかな。
なんだか、少し寂しい。そんなに関わったことはなくても、私は彼に救われたのだから。