俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい

かりそめの幸せは儚い幻


……素肌を包む毛布のぬくもり、カチャカチャとなにかを動かす音、美味しそうな匂い。

浮上してきた意識にいろいろな情報が加わって、私は今家で眠っていることを認識する。

あぁ、もう朝なのか。桃花が朝食を用意してくれているんだから、早く起きなきゃ。ていうか、今日って仕事だっけ?

ぼうっとする頭を回転させつつ寝返りを打つも、身体はなぜか重く気怠くて、思うように動かない。瞼も重く、指の腹でこすっていると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

……ん、階段?

うちで聞こえるはずのない音に違和感を覚え、うっすら目を開けた途端、視界に愛おしい人の笑顔が飛び込んできた。


「おはよう」


いつもと違う明るい室内でとろける笑みを向ける不破さんを見て、私は一瞬ぽかんとする。直後、昨夜の情事を鮮明に思い出して飛び上がりそうになった。


「ひゃっ! お……おはよう、ございます」


ガバッと上体を起こすも、自分が裸のままであることに気づき、慌てて胸の上まで毛布を引っ張り上げた。

色気のない私に、不破さんはクスクスと笑う。ラフな部屋着姿すらもカッコいいし、目覚めた瞬間から彼を拝めるなんて贅沢すぎる。
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