俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
努力も虚しく動揺しまくる私を見て、雪成さんはおかしそうに含み笑いしていた。

まったく……今日は特に浮かれた気分ではいられないのに。雪成さんのご両親の命日なのだから。

お昼の会食がなくなった分、時間が取れたのでふたりでお墓参りに向かうことになっている。彼とその確認をしたあと、時間になるまで今度こそ仕事に集中した。


雪成さんのご両親が眠っている霊園は郊外にある。

彼が生まれ育った地元は、なんと偶然にも私と同じ新潟らしいのだが、ご両親の親族は東京近郊にいるらしく、お墓参りがしやすいようこちらにしたらしい。

静かなその場所は手入れがよく行き届いていて、シクラメンやベゴニアなどの冬の花がそこかしこに咲いているガーデニング霊園だった。

雪成さんは今どんな心境なのだろうと気にしつつ、桶に水を汲んで園内を歩いていると、ふいにこんなひとことが耳に届く。


「俺の親父も料理人だったんだ」


初めて彼の口から語られた、お父様のこと。私は真摯に話を聞きたくて、花束を抱える彼をまっすぐ見上げる。


「そうだったんですか」

「あぁ、実家が昔ながらの洋食屋でね。母親もそれを手伝ってて、小さかったけど地元の常連客で毎日賑わってる、あったかい店だったよ」
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