俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
雪成さんがプロバイドフーズに入った理由の裏に、こんなに複雑な思いが隠されていたとは。彼も悩みながら働いていたことを知り、なんだか親近感が増す。

しかし、彼が抱える過去や後悔は、私とは比較にならないほど重いもの。


「結局、親父の願いを叶えてやることも、仲直りすることもできずに、ふたりとも事故であの世に行っちまった。俺が家を出てすぐ親父の病気がわかって、店も売りに出されてたことも、そのときに初めて知ったよ。とんだ親不孝者だ」


冷静な表情とは裏腹に、吐き出された声はとても苦しく、辛そうだった。

先ほど、『あったかい店だった』と過去形を使ったのは、彼がご両親と疎遠になっている間に店が閉められてしまっていたからだったのだ。悔やんでも悔やみきれないだろう。

彼のやるせない気持ちが痛いほどわかって胸が苦しくなりながらも、彼が調理師を辞めた原因もそこにあるのではないかと推測する。


「雪成さんが調理師を辞めたのは、そのせい……?」


眉を下げ、遠慮がちに問いかけると、彼は力なく嘲笑を浮かべて小さく頷いた。


「店がなくなったことで、料理人を続ける意味を見失った気がしたし、俺にそんな資格はないと思ったから」
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