俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
もうずいぶん見ていない母の顔を頭に過ぎらせていると、雪成さんは墓石の前にしゃがみ、納得したように頷く。


「麗にもそんな事情があったとはね……。お前が意外と寂しがり屋だったり、仕事しか逃げ場がないっておいおい泣いたりしたのはそのせいか」

「おいおいは泣いてないはずですけど」


あのときのことを思い返して若干気恥ずかしくなり、苦笑いしつつ私も彼の隣にしゃがんだ。

雪成さんはふっと笑みをこぼし、花を供えながら穏やかな声で言う。


「俺たちのそういう孤独な部分が、いつの間にか引き寄せ合ってたのかもしれないな」

「……そうかもしれないですね」


どこか隙間が空いた部分が、一緒にいることで気づかないうちに満たされていたとすれば、私たちはお互いに必要な存在だったということ。

そうであったらいいな、と思いつつ微笑み合い、ふたりで線香も供え、きっと天から見守ってくれているであろう彼のご両親に手を合わせた。


肌を刺す北風から逃げるように車に戻り、本社へと向かう道中で、私は先ほど言いそびれたことを話す。


「実は、私の父も料理人なんです。しかも、地元は同じ新潟」


少々興奮気味に告げると、雪成さんも一瞬こちらに目を向け、珍しく驚きを露わにする。
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