俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「……どうして、ですか?」


困惑と、わずかな恐怖が入り混じった声を押し出した。

彼は闇を取り込んだ瞳で私を一瞥し、これまでに見たことがない冷たい笑みを口元にだけ浮かべる。


「ずっと見たかったんだ。俺の前で、“女”になるお前を。それが見られて満足した」


急激に、全身から血の気が引く感覚を覚えた。

なに、それ……。そんな理由で、私に甘い言葉を囁いて、キスして、抱いたの?

すべては雪成さんが楽しむため? 家事やウサギの世話をさせるのと同じで、そこに彼の愛情はなかったの?

まるで二日酔いみたいに、頭の中でなにかがガンガンと鳴り響くのを感じながら、生気がなくなったかというほど抑揚のない声を絞り出す。


「これまでのことは、全部特別報酬の一環だったってこと、ですか?」


彼は前方に視線をさ迷わせたまま、私の問いかけに答えようとしない。「否定してくださいよ……」と、弱々しい声がぽつりとこぼれた。

ねぇ、あなたはそんな無神経なことをする人じゃないでしょう。自由奔放で破天荒だけど、人を好き勝手に弄んだりなんてしない。

私はそう信じているから、お願い、今のは冗談だと言って。本当はちゃんと、私を好きだって……。
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