俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
心の中で強く願っていたその瞬間、はっとした。なぜ今まで浮かれていられたのかと自分を恨みたくなるほど、一番大事なことを失念していたことに気づいたから。

私、一度も“好き”って言われてない──。

『俺をこんなに夢中にさせるのは麗だけだ』とか、『お前を独占したい』とか、気があるようなセリフをかけられて勘違いしていただけなのかもしれない。

彼にとっては、全部私を手なずけるためだけの上辺の言葉にすぎなかったのかも……。

震えだす手を膝の上でぐっと握り、ゆらゆらと揺れる視界に彼を映す。込み上げる憤りや涙を必死に抑え、震える声を投げかける。


「雪成さんも、私と同じ気持ちだと思っていましたが……私の自惚れだったんでしょうか」


そのとき、ほんの一瞬、雪成さんの表情が苦しげに歪んだ。それは、ただ私の想いが迷惑だからなのか、それとも別の理由があるのか。

目を伏せて嘲笑を浮かべる彼からは、もう真意は読み取れない。


「俺はこういう男なんだよ。悪いな」


投げやりにもとれる言葉が放たれ、私の中でなにかが切れる感覚を覚えた。もう限界だ。
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