俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい

そうして懐かしい地に降り立ち、新しいリオンを目にした俺は、タイムスリップしたかのような感覚に襲われた。

まったく同じではないものの、赤いトタン屋根や、入り口の上についたストライプ柄の雨避けのテントはよく似ている。なにより、立て看板に書かれた“lion”という店名が、激しく胸をざわつかせた。

ドクドクと鳴る心臓を抑え、意を決して中に入る。夕方六時の店内には客がちらほらと来ており、愛想のいい中年の女性が席へ案内してくれた。

木のテーブルに椅子、チェック柄のテーブルクロス、手書きのメニュー表。どれもがあの頃を彷彿とさせて……気味が悪い。

それなのに、隣のテーブルに料理を運んできたコックコートを着た中年男性は、当然ながら父ではないのだ。それがますます不気味に感じる。

肝心のメニューは、ナポリタンだとかハンバーグだとか、どこにでもありそうなシンプルな料理名が並ぶ。父の頃もこんな感じだったので、ひとまずオムライスを頼んでみることにした。

ぼんやりと店内と人の観察をしながら待っていると、次第に昔の記憶と重なって見えてくる。

母もあの女性店員と同じように頭にバンダナを巻き、エプロンをして、笑顔で注文を取っていた。父も時々厨房から出てきては、常連客との会話を楽しんでいたっけ。
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