俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「社長は、紅川さんが彼の父親の店を真似したのではないかと疑っていました」


ドクン、と心臓が重苦しい音をたてる。同時に、私がリオンの名前を口にした途端、雪成さんの様子が変化したわけを理解した。

父同士で約束を交わしていたことなど想像もしないだろうし、本当の理由を知らなければ誤解しても無理はない。

表情を曇らせる私と同じく、桐原さんも浮かない顔で声のトーンを落とす。


「社長にとってはなにより思い入れのある店ですから、他人がやるのはどうしても許せないのだと思います。そのせいで紅川さんを憎む気持ちが少なからずあるから、あなたを悲しませないために離れることにしたんでしょう」

「そんな……」


私を突き放したのはそのせいだったなんて、どうしようもなくやりきれない。なにより、彼が苦しい感情を抱えているのは、私にとっても辛いこと。早くそれを取り除いてあげたい。

いてもたってもいられず、私はバッグからスマホを取り出す。


「私、社長に説明を──」


そのとき、大きな手がこちらに伸びてきて、連絡するのを制するように私の手に触れた。目線を上げれば、難しい表情をした桐原さんがいる。


「彼は今頃リオンに向かっているはずです。信念を貫く人ですから、直接話をしないと納得できないかもしれません」

「そう、ですか……。誤解が解けるといいけど」
< 227 / 261 >

この作品をシェア

pagetop