俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
それならば仕方ないとスマホをテーブルに置いたものの、胸のざわめきが治まらない。父がすべてを話しても、雪成さんが信じてくれなかったらどうしよう。

不安で落ち着かず、カフェラテを飲む気にすらなれずにいたとき、スマホが音を奏で始めた。

光るディスプレイを見て、一瞬息を呑む。表示された名前が、今まさに話していた人のものだったから。


「雪成さん……」

「どうぞ、出てください」


自然とふたりきりの呼び方が口をついて出てしまったが、桐原さんは構わず出るように促した。私は鳴り続けるスマホを見つめ、少々ためらう。

雪成さん、もうリオンに行ってきたんだろうか。どうして私に電話を?

話すのはフラれた日以来だし、彼がなんと言おうとしているのかがわからなくて怖い。でも、逃げちゃダメだ。

意を決して受話器のマークをタップし、耳に近づける。


「はい、有咲です」

『麗』


大好きな声が、鼓膜に留まらず胸までも震わせた。声を聞かなかったのはたった数日なのに、ずいぶん懐かしい感じがする。

条件反射みたいに目頭が熱くなるけれど、そんなことを知る由もない彼は、なんだか急いでいる調子で問いかけてくる。
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