俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「普段の社長からは想像できないほどカッコ悪いですね」


堂々と皮肉を口にするものだから、内心ひやっとする。しかし、腕組みをする彼の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。


「でも、今のあなたも人間らしくていいと思います」


それはたぶん、彼なりの褒め言葉。雪成さんは心地悪そうな顔をしていたけれど、私はちょっぴり笑ってしまった。

桐原さんもこちらを向き、いたずらっぽく口角を上げる。


「よかったですね、有咲さん。あとはおふたりで話し合うなり、温め合うなりご自由に」

「あたっ……!?」


“温め合う”って表現、やめてくださいよ! この桐原さんから生々しい冗談が飛び出すとは。

赤面してあたふたする私に反し、雪成さんはいつもの調子を取り戻していて、なにかに納得した様子で言う。


「こんな所まで来て麗に会ってたのは、俺をけしかけるためか。なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど」


どうやら、桐原さんが私に気があると見せかけた行動を取っていたことの理由に気がついたらしい。

眼鏡のブリッジを押し上げた彼は、それを認めるように小気味いい笑みを見せる。
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