俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
挑発的な瞳で雪成さんを見据える彼が、いつもの紳士的な専務とは明らかに違っていて目を見張ってしまう。


「だから覚悟しといて、ゆっきー」

「もう隙なんか見せねぇよ、イクミン」


軽く火花を散らしながらも、お互いをあだ名で呼び合うふたり。ボケているのか真面目なのか、ツッコミどころがわからなくて困る。

微妙な笑いを浮かべて彼らを見ていると、専務の顔に戻った桐原さんが気を取り直すように背筋を伸ばす。


「では、私は観光してから適当に帰りますので、また会社でお会いしましょう」

「あっ、はい。あの、本当にありがとうございました……!」


私は深々と頭を下げ、凛とした笑みを残して颯爽と去っていく彼を見送った。私と同じく彼の背中を見つめる雪成さんも、きっと心の中では感謝していることだろう。

胸を撫で下ろしてひとつ息を吐くと、雪成さんがこちらに視線を移して問いかける。


「そういえば、新幹線の時間は?」

「あぁ、まだです。あれは桐原さんが適当に言ったことで」

「……あいつ、いつか抹殺してやる」

「社会的にでもダメですよ」


彼が恐ろしいことを据わった目で呟くものだから、即座に宥めた。もちろん冗談なので、雪成さんはすぐに苦笑を漏らす。
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