俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「桐原の挑発には薄々感づいていても、それでもお前を放っておくことはできなかった。途中でタクシー降りて走るとか、ひとり青春ごっこかよ……」


脱力しながらぼやく彼には笑ってしまうけれど、必死になってくれたことがやっぱり嬉しい。


「もう、こんなふうには会えないと思ってました」


嬉しさの中に切なさを滲ませた本音が自然とこぼれ、今さらながら気まずさを感じて目を伏せた。

しかし、頬に冷たい手がそっと触れ、再び目線を上げる。憂いを含みつつも愛おしそうにこちらを見つめる彼は、私の存在を確かめるかのように頬を撫でる。

触れる手の温度は低いのに、心には温かなものが広がっていく感覚を覚え、大きな手に自分のそれを重ねた。

……あぁ、もっと触れたい。あなたの唇に、肌に。

そんな欲情を抱いたのは、きっと私だけじゃないはず。そう確信したのは、雪成さんがなにかをぐっと堪えるような顔をして手を離したから。


「時間まで、どこかで話そう」


努めて平静に言われ、私も「はい」と頷いた。

まずは、お互いの気持ちをちゃんとすり合わせなければ。理性を飛ばしてもいいのは、それからだ。

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