俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい

私が乗る新幹線は、偶然にも雪成さんが取っていた時間と同じだった。

こんなところで気が合うとは、と驚きつつも喜び、それまで駅のすぐそばにある足湯に浸かりながら話すことにした。

辺りは雪景色で、風はないが空気は当然冷たい。それでも、源泉かけ流しのお湯に両足を入れるとたちまち身体が温まり、心までもが柔らかく解れていく。

皆、初詣にでも行っているのか穴場なのか貸切状態の中、身体を寄せて隣に座る雪成さんが口を開いた。


「紅川さんがリオンを開店させたのは、もとはと言えば俺のためだったんだ」

「雪成さんのため?」


彼はひとつ頷き、私の父に聞いてきたらしい話をゆっくり話し始める。


「元々人気があったあの店は、またやってくれって声が多かったらしい。もちろん紅川さんもそのひとりだったけど、『息子が帰ってこられるように、いつかリオンを再開してもらいたい』っていうのが、親父と母さんの強い願いだったって」


一番大きな理由を明かされ、心が切なく締めつけられた。

疎遠になっていても、病気になっても、自分の息子のことをひたすら想い続けていたご両親の深い愛情に胸を打たれる。
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