俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「雪成さんのこと、ずっと心配してたんですね」

「あぁ。まさかそんな理由からだったなんて、思いもしなかった。親父が、俺の居場所を残そうとしてくれてたなんて」


彼は膝の上に両肘をつけ、視線を宙にさ迷わせる。頭の中には、きっとご両親の姿が蘇っているのだろう。


「いくら親友の頼みでも荷が重い、と紅川さんはだいぶ悩んだらしいが、親父が渡したレシピを何度も試作して、全部完璧に味を再現させたんだ。自信をつけてようやく復活させることができたって、嬉しそうに言ってたよ」


私や母と離れた父が、ひとりで葛藤と試行錯誤を繰り返しながら開店にこぎつけた姿が思い浮かび、感極まってしまう。

家族を失くした父にとっても、リオンを再開させるという目標があったことは、生きていくための大きな力になっていたに違いない。


「私の父が、雪成さんとご家族との架け橋を作ったってことですよね。なんだか誇らしいです」

「さすがお前の親父さんだよ。温情深くて、真面目で芯が通ってて、素敵な人だった。麗とそっくり」


優しい笑みを向けられて胸がじんわりと温かくなり、嬉しさで私の口元も緩んだ。
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