俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
母の隣に座った父は、しばし近況を伝え合ってから雪成さんに視線を向け、こんな提案を始める。


「雪成くんは、ここで働く気はないかい? 元々は君のお父さんの店だし、君がやってくれることを望んでいたから、どうかなと思ってね」


それを聞いて、私は少し複雑な気分になる。

雪成さんはこの店に並々ならぬ思い入れがあるのだし、今ならここを継ぐことも選択肢の中に入っているかもしれない。彼がそれを望むなら、私も応援したい。

しかし、そうなるとまた離れなくてはいけないだろう。遠距離は不安だし寂しいに違いないから、できれば避けたいのが本音だ。

私の心情を知ってか知らずか、雪成さんはゆるりと微笑んで軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。お気持ちは本当に嬉しいのですが、私は私の場所でやるべきことがたくさんあります。大切にしたい、守りたい人たちのために、まだまだ精進していかなければならない」


彼が出した答えで、一抹の不安はすんなり消えていく。

“大切にしたい、守りたい人たち”というのは、おそらくパーフェクト・マネジメントの社員のこと。でも、ちらりと私に流し目を向けられたことで、自分がその中でも特に想われているような気になってしまう。
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