俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「ありがとうございます。父の形見として、後生大事にします」


濡れた宝石のごとく綺麗な瞳を父に向け、心から感謝する彼を見て、私も目頭が熱くなった。

遠回りをしたけれど、やっと雪成さんたちも仲直りできたのだと、そう思いたい。


心温まるひとときはあっという間に過ぎてしまい、私と父は後ろ髪を引っ張られる思いで、『またゆっくり会おうね』と言って別れた。

母とも、今度はお盆に帰る約束をして駅でお別れし、今は雪成さんと東京へ向かう新幹線の中だ。

遠くなっていく地元の景色に侘しさを感じていると、雪成さんが先ほどもらったノートを取り出して眺め始める。そして、おもむろに口を開いた。


「このノート、親父は絶対見せてくれなくて、『お前が一人前になったら渡してやる』って言われてた」


彼は昔を懐かしむ優しい瞳をして、所々汚れた古いノートをそっと撫でる。


「その一人前っていうのは料理人としてのことだとずっと思ってたけど、もしかしたら“親父が認めるくらい立派な人間になったら”って意味だったのかもしれないって、今は思う」


穏やかな口調でそう言うと、私をちらりと一瞥して、「都合よすぎか」と苦笑した。私は微笑んで首を横に振る。
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