俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
その日は、役職者の皆さんは慌ただしく対応に追われていたものの、私たちはいたって平和に仕事を終えた。
しかも定時で。そのようにしろと不破社長から指示があったらしい。
残業せずに帰れるなんて久々すぎて、本当にいいのかと不安になってしまう。
それは社員皆同じで、「帰っていいんだよね?」と口々に確認しながら会社をあとにした。
帰宅途中でスーパーに寄り、すこぶる気分がよかったため奮発して牛肉を買った。今日はすき焼きにでもしよう。
五階建ての比較的綺麗なマンションの、三階にある部屋に着くと、意気揚々と準備を始める。
しばらくして、同居人である桃花(ももか)も帰ってきた。
私のほうが早く帰ってきていることなんて滅多にないため、彼女はものすごく驚き、さらに夕飯がすき焼きだとわかると、かなりテンションが上がっていた。
同い年の桃花は、いつも笑顔で明るく、キュートな魅力を振り撒いている。身長百五十三センチと小柄で、顔立ちもアイドルのように可愛く、小動物みたいな子。
彼女も上京組で、大学に入学した当初から気が合い、卒業と同時に家賃を折半して一緒に暮らし始めた。私の唯一無二の親友だ。