俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
スマホを桃花に返すと、彼女はどこかうっとりした様子で視線を宙にさ迷わせる。


「イケメンなうえに料理できるとか、一家にひとり……ううん、マンツーマンで欲しい人材!」

「桃花は料理できるじゃん」


美味しい手料理を作れる彼女には、専属シェフは必要ないんじゃ?と思い、軽い気持ちで言うと、桃花の可愛い顔が仏頂面に変わってギョッとする。


「そりゃあね、自分でも作れますよ。いつも忙しい麗に代わってほぼほぼ私が料理担当してますよ。でもね、たまには自分のためだけに誰かに作ってもらいたくなるわけで」

「ごめんなさい」


若干トゲのある口調で語られている最中、私はすぐさまおでこを床にくっつける勢いで土下座した。

そうだ、いつも桃花に炊事を任せちゃってるから、私が作ってあげる機会ってあまりないんだった。そりゃたまにはラクしたいよね……。

反省しておでこをつけたままでいる私に、桃花は「冗談だって」と言い、ケラケラと笑った。

桃花はこんなことくらいでは怒らないお人好しな子だとわかっている。

それに甘えてしまっていたけれど、これからは残業も少なくなりそうだし、私もできる限り料理をしようと誓った。

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