俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「よくそんな詳しい事情を知っていたな」

「たびたび会食に同行させられていたので、そういう事情は無駄に知っているんです」


若い女性がいたほうが華があっていいだろう、というだけの理由で同席させられた数々の会食を思い返し、私は苦笑いを浮かべた。

おかげで取引先の内部事情や、あまり口外できないような秘密の話まで知ってしまっている。

これが今役立つとはね、と思いながら、エレベーターが四階に着く表示を見上げる。あっという間に時間切れだ。

名残惜しさと気まずさが混じり合い、複雑な心境のまま、私は扉が開くと同時にふたりに頭を下げる。


「では、失礼しま──」


降りようと足を踏み出した瞬間、目の前を腕が横切ってギョッとする。

不破社長の手が開いた扉をトンッと押さえ、その腕に通せんぼされてしまったのだ。

な、なに!? これじゃ降りられないんですが……。

驚きと困惑で私は肩をすくめ、鼓動を速まらせながら目線を上げる。思いのほか近い距離にいる彼は、真剣な瞳でじっと私を見下ろし、桜色の唇を動かす。


「あんた、名前は?」

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