俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
──その問いかけで、彼は私のことを忘れているのだと確信した。

先ほど膨れた期待が、しゅんと萎んでいく。予想していたことでも、私は彼の記憶にも残らない程度の存在だったのだと実感させられると、やっぱり切ない。

私は、こんなに覚えているのに。

でも、それを表面に出してもどうにもならない。ショックを受けた心をひた隠しにし、きりりとした表情を作って息を吸い込む。


「営業部の有咲です」


しっかりと答えると、不破社長は私を見つめたまま小さく頷き、ふわりと微笑んだ。

その美しい笑みに見惚れてしまいそうになった次の瞬間、彼は突拍子もないひとことを放つ。


「有咲、俺にさらわれてみないか?」


……エレベーターだけじゃなく、私の思考までもが停止した。

えぇと、今のはどう解釈したらいいんですかね。


「…………はい?」

「あんたを奪って、俺のものにしたくなった」


ぽかんとして間抜けな声を出す私に向けて、社長は不敵さを滲ませた表情で、あっけらかんと宣言した。

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