俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
ま、ますます意味がわからない……。奪うって、なにから? 私は誰のものでもないんですが……。

というか、今のはなにげに独占欲を露わにしたセリフ。心臓がちょっとおかしな動きを始めてしまっている。

内心どぎまぎしながら硬直していると、斜め後ろのほうから桐原専務の小さなため息と、独り言がボソッと聞こえてくる。


「またすぐに口説く社長の悪い癖が……」

「なにか言ったか」


社長が通せんぼうしたままの格好でピクリと反応を示すと、専務は眼鏡のブリッジを押し上げて言い直す。


「いえ、エレベーターを止めていたら迷惑ですよと」

「俺が口説くときは本当にそいつが欲しいときだけだ。女癖が悪い男みたいに言わないでくれる?」

「聞こえてるじゃありませんか……」


無愛想な社長の声に、専務は口の端を引きつらせて脱力した。

一方の私は、心拍数が急上昇してしまっている。だって、社長は今私を口説いていて、そうするのは本当に欲しいときだけらしいのだから。

いやでも、私のことを覚えていない彼にとったら今が初対面。それで私を欲しがる理由がまったくわからない。

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