俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
ためらっていると、彼は突然こちらに右手を差し出してくる。


「手、出して」

「手?」


キョトンとする私の右手を差し出すよう指示してくるので、とりあえず言われた通りにしてみると、ぎゅっと握手させられた。

わ、大きな手……指も長くて綺麗。でも少々無骨で、甲には血管が浮き出ているそれからは、料理人の男性らしさが窺える。

彼の手も冷えているのに不思議と温かさを感じて、全身にじわじわと火照りが広がっていく。


「はい、これでオトモダチ。俺の暇潰しにもなるし、遠慮なくどうぞ」


淡々と告げられた言葉で、この握手の意味を悟り、私の緩んだ口からふふっと笑いがこぼれた。

不破さんって本当に不思議な人だな。素っ気ないくせに、壁を取り払うのが上手いというか。

たいした繋がりのない私相手にも、こんなふうに話に付き合ってくれようとするなんて、意外と根は優しいのかも。

それだけでも少し気分が変わってきたものの、確かに話したらスッキリするかもしれない。

お言葉に甘えることにした私は、昨日のことを思い返しながら口を開いた。


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