俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
そして、片手をポケットに入れてこちらに近づいてくる。身を固くして目を見張る私に、もう片方の手を伸ばし、人差し指でツンと額をつついた。

反射的に瞑った目を開ければ、思いのほか近くに、いたずらっぽい表情さえも綺麗な顔がある。


「心配しなくても、あんたが妄想してるようなイケないことはしないよ」

「もっ……妄想なんて、してませんが」


あからさまに動揺している私の発言は、嘘だとわかったのだろう。彼はおかしそうにクスッと笑った。

もしや、私の反応をおもしろがって、わざと怪しいことを言った? この人の考え、本当に読めない……!

やられた、という気分で脱力していると、業務内容を告げるような調子の声がかけられる。


「いろいろと頼みたいことがあるんだ。引き受けてくれるかどうか、帰るまでに決めておいて」


社長はそう言い、自分のデスクに戻ってどこかに電話をかけ始めてしまった。

一体、どこからどこまでが本気なんだろう……。承諾したら、本当に彼の住処に連れて行かれることになるのだろうか。

私も自分の仕事を再開するも、どうしようと悩み続け、いつの間にか速くなっていた鼓動はしばらく乱れたままだった。




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