俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
風変わりな彼のテリトリー
悩み続けたまま迎えた、終業時間の十五分前。私はようやく決心し、スマホを手にして桃花にメッセージを打っていた。
「今夜は遅くなりそう……っと」
特別報酬がそこまで欲しいわけではないし、断ったとしても、社長はペナルティを設けたりするようなブラックな人ではないだろう。
それなのにここまで悩むということは、無意識に不破社長宅に行ってみたいという好奇心を抱いている証拠だと思ったのだ。
社長がどんな私生活を送っているのか、頼み事はなんなのか興味がある。その知りたい欲に忠実になってみよう。
特別報酬のこともかいつまんで記し、桃花に送信してしばらくすると、外に出ていた社長が戻ってきた。席を立った私はデスクチェアに座る彼に向き合い、背筋を伸ばして口を開く。
「社長、先ほどの特別報酬の件、お受けします」
彼は私を見上げ、どこか安堵したようにも見える笑みを浮かべた。
「助かるよ。俺ももう終わるから、待ってて。一緒に帰ろう」
最後のなにげないひとことに、またちょっぴりキュンとしてしまう私は、どれだけ女として干からびているのだろうか。
まぁ、この四年間で男の人とふたりで帰ることすらなかったのだから仕方ない……と思っておこう。