俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「それが特別報酬の内容ですか」

「そう」

「片づけはともかく、掃除は家事代行サービスでも頼めばいいのでは……」


もっともなことを言ったつもりだったが、彼はエレベーターに乗り込みながら浮かない表情でこう答える。


「頼んでたんだよ、半年くらい前まで。おばちゃんだったんだけどさ、どうも俺のいない間にクローゼットや棚の中を物色してる形跡があって」

「えぇっ、まさか窃盗!?」

「いや、盗まれたものはなかったんだ。そういう目的じゃなくて、たぶん俺の私物を見たり、匂い嗅いだりして楽しんでたんじゃねーかな」

「ひぃぃ」


思いもしなかった事情が明かされ、私は口に手を当てて引き気味に叫んだ。そんなことをするおばちゃんがいたとは、ゾッとする。

エレベーターが上昇していく中、社長は口元に歪んだ笑みを浮かべる。


「気持ち悪いだろ。それで、まったくの他人に任せるのは嫌になったってわけ。桐原には速攻で断られたし、アリサなら信頼できるからいいかなと」

「そういうことでしたか……」


いろいろと納得して、ゆっくり頷いた。若くてイケメンな社長だからこその悩みもあるらしい。

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