俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい

カリスマシェフのご帰還


例の出張当日はあっという間にやってきて、その一日も瞬く間に過ぎていった。

ただ今、私は帰りの飛行機の搭乗手続きをするところ。チェックインカウンターの列に並び、空港内の景色をぼんやり眺めている。

朝早くに東京を出発し、新千歳空港に着いたのは午前九時頃。

初めて降り立った、すでにうっすら白く染まっている札幌の街に感激する間もなく、日本有数のフードサービス会社へ移動した。

今日の目的は、この会社の社長と対談をしたり、社員食堂を見学させていただいたりと、簡単に言えばパーフェクト・マネジメントをよりよくするための勉強をすること。

社内を実際に見たり、経営の詳しいお話を聞いたりするのはとても有意義で、来てよかったと思う。

ただ、やはり北海道まで来たというのに仕事だけして帰るのは、なんともやるせない。明日は土曜で休みだし、すでに仕事も終わっているのだから、ちょっとくらい羽を伸ばしても……という邪な気持ちが消えないのだ。


「でも、公私混同するのはよくないしね……」


手続きを終え、搭乗券を見下ろして諦めの声をつい小さくこぼした。

隣に並んだ不破さんがこちらに探るような目線を向けるので、緩んでいた気持ちも姿勢もピンとさせる。
< 84 / 261 >

この作品をシェア

pagetop