俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
でも、きっと私が先ほどお手洗いに行った隙に買っておいてくれたのだろう。彼のその気持ちが、観光するより、なによりも嬉しい。

木彫りのミニ熊さんも、あまり胸キュンはしないけれど可愛らしく見えてきて、ふふっと笑みがこぼれた。


「社長が私のために選んでくれたことが嬉しいです。ありがたくいただきます」


ひょいと熊さんを持ち上げ、笑顔で軽く頭を下げる。私から視線を外さない彼の表情も、柔らかくほころんだ。

ふたり歩調をそろえて再び歩き始めたとき、不破さんがなにげなく言う。


「餌付けすると喜ぶところもピーターに似てんな」

「ちょ、餌付けって」

「可愛いよ、すごく」


魅力的な微笑みとともにかけられた不意打ちのひとことで、胸に強い衝撃を受けた気がした。次いで、顔に熱が集まる。

今、心臓で大きな音がしたんですが。

可愛いだなんて、言われ慣れていないからかな。この人から突然甘いセリフが飛び出したからかな。それとも……。

三日前に桃花と話していてぼんやりと浮かんだ“恋”という可能性が、再浮上してくる。

曖昧だったそれがはっきりとした輪郭を持ち始めるのを感じるも、飲食店やお土産屋さんのディスプレイが目に入ると、そちらに意識が逸れていく。
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