俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「あのうるさいやつが歓迎会開いてくれるって?」


もはやあだ名ですらない“うるさいやつ”に失笑しつつ、単純に気になったことを聞いてみる。


「そうみたいですね。社長は来てくださるんですか?」

「個人的な飲み会には滅多に行かないよ。俺がいたらできない話もあるだろうし」

「そう、ですか」


なんだ、不破さんは来ないのか。社員とフレンドリーだから、そういう集まりにも顔を出すのかなと思っていたのだけど。なんとなく物足りない気分……。


「寂しい?」


頭の上のほうからあやすような甘さを含んだ声が降ってきて、心臓が揺れ動いた。“それが本心じゃないの”と言われているみたいに感じて。

でも、彼のいたずらっぽい瞳を見れば、きっとまた私をからかっているのだろうとわかるし、動揺するだけ損だ。


「社長には四六時中お供してますので、十分です」


ささやかに笑みを浮かべてかわすと、不破さんは少々つまらなそうに「へぇ」と声を漏らした。

しかし次の瞬間、耳元にかかっている髪がかすかに揺れ、彼の顔が寄せられたことに気づいてはっとする。


「もう満足してんの? 俺はまだまだ足りないのに」
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