俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
セクシーな囁き声が耳に吹き込まれ、ゾクリと身体が疼く感覚を抱いた。

ま、またわざと妖しげなことを言って、この人は……! イケメンの思わせぶりなセリフはタチが悪い!

結局動揺を顔に表してしまう私に、彼はクスッと笑い、ちょうど開いたドアに向かって足を踏み出す。飄々としている彼に、自分ひとりが翻弄されていることを悔しく思いつつ、あとに続いた。


今日お邪魔するのは、なんと不破さんが以前調理師として働いていたシティホテルのレストラン。平日の昼はリーズナブルなランチメニューが人気で、毎日賑わっている。

不破さんは、ここで働いていたことは一切匂わせないが、内心はどう思っているのだろう。当時の彼のことを知っている従業員が残っているかもしれないし、お互い複雑な心境になるんじゃないだろうか。

いろいろと想像して勝手にハラハラしていたものの、白を基調とした清潔感漂う店内に入ってすぐに、お客様のこんな声が耳に飛び込んできた。


「料理まだかな?」

「あっちの席の人のほうがあとに来たのに、もう食べてるしね」


女性客ふたりが、水が入ったグラスしか乗っていないテーブルに肘をつき、若干不満げに話している。
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